4日目

ロバニエミ発ヘルシンキ行きのサンタクロースエクスプレス列車内で、7時前、下車のため起きる。時間的には長く寝たはずだが断続的に目が覚めていたこともあり、割と眠たい。列車はヘルシンキ到着。7時7分下車。弱い雨が降っており、やや暗い印象。駅でトイレを利用するには1ユーロ必要とのことだが2ユーロ硬貨しか持っていなかったので、1ユーロのお菓子(HARIBOハリボ)を買う。無事にトイレ完了。(トイレのことで頭がいっぱいで何も考えていなかったが、購入したお菓子はラクリッツ味のハリボで、サルミアッキという強烈な味のお菓子の一種のようだ。この後開封、味見して顔をしかめることになる。)
 
ヘルシンキ駅出口から駅前広場を望む。うーむ、都会だ。飛び抜けた高さの建物こそないものの、石造りで歴史を感じる重厚な造りの街並み。平日(今日は金曜日)の朝7時過ぎで小雨が降る中で、通勤ラッシュの時間帯だからか、ロバニエミののんびりした雰囲気とは一変、少し慌ただしい、落ち着かない印象を受ける。とはいえ、一国家の経済の中心地となると、こうでなくてはならないだろう。東京を歩いたときのどことなく落ち着かない気分と少し似たものを感じる。浮浪者風の人もうろついているので、ロバニエミよりも少し緊張感を高めて臨む。歩いてヒルトンストラッドホテルへ向かう。
 
ホテルはハカニエミ港のほとりにあった。朝8時前に到着し、妻が荷物預けやチェックインについて無事に交渉してくれる(頼りになるなあ)。チェックインは10時からなので、荷物のみ預けて街を散歩することに。
 
ホテルの前に広がるハカニエミ港には、サマーサウナというサウナ船?が浮かんでいる。もしかして、船内でサウナに入り、身体が熱くなったら海に飛び込む、ということなのだろうか。なんてサウナ好きな話なのだろう。さらに歩くと、店舗ウィンドウにサウナのセットや内装を販売している店がある。東京にはこんなものはない。やはりここはフィンランドだ。好奇心がかきたてられる。
 
雨は止んだ。中心街北部へ散歩する。妻が、朝食としてHES BURGER:ヘスバーガーに入りたがる。しかし、まだ開店前だった。あてもなく歩く。石造りの大きな教会が坂の上にあるため行ってみて外観を楽しむ。さらに進んで、リンナンマキ遊園地のある丘へのぼったりする。まだ9時前なので、遊園地も開園前。散歩を続ける。
 
遊園地の周りに遊歩道がある。遊歩道の脇には、高さ3メートルくらいの岩の丘がある。登れそうなので登ってみる。もともと高い丘に遊園地があることもあり、岩の丘を登り切ると、予想どおりとても眺めがよい。眼下にはトーロ湾やヘルシンキ中心街の南西部が見下ろせた。駅を出発してから、割とずっと人がたくさん居たけれど、この場所には誰もおらず、ホッと一息。しばらくここでのんびりする。
 
目の前に広がる海外の風景に、遠いところへ来てしまったなあ〜、と感慨にふける。ふと「そうだ、あれがあった」と、駅でトイレ用の1ユーロを作るために買ったハリボのグミの袋を開けて食べてみる。モグモグ…!!う〜〜、変な味〜…!想像を絶するまずさ!妻が「うぇ〜、まずい。まずいっス」と顔をしかめる。えぐみのある味噌が濃くなったような味だ。これはまずい。噛み締めると奥歯に挟まる。忘れられないひとときとなる。
 
岩の丘を下りて、鉄道の下のトンネルをくぐって歩く。自転車に乗っている人が多く、手信号が徹底されていて良いなあと思う。植物園らしき場所で大きなチューリップを楽しむ。カウプンギン公園というらしい。お庭を散策させていただく。花々は手入れが行き届いていることが素人目にもわかる。庭師さんが手際よく働き続けている。妻は海外の植物に興味があるらしく、この旅が始まって以来ずっと植物の写真を撮っている。
 
写真撮影の終了をベンチに腰掛けて待っていると、空が晴れてきた。青空で気分が上向く。上機嫌で公園を出るとスタジアムが見えた。なるほどこれが1952年開催のヘルシンキオリンピックの会場か。会場脇の緑道に偉人の像が立っているが、本を開いている姿がスマホをいじっているようにも見えるので、像のマネをしながらスマホをいじってみる。妻に写真を撮ってもらう。ここまでノープランで歩いてきたけれど、さすがは中心街、見所がたくさんある。
 
10時、朝に何も食べていない(ハリボのグミを除く)のでお腹が空いたこともあり、警察署前のヘスバーガーに入ってみる。ハンバーガーとポテトとドリンクのセット2つで17ユーロと割高。ハンバーガーは美味く、そんなに油っこく感じない。具もしっかりしていて、ずっしりと手になじむ(みろ、こんなに手が汚れてしまった、という海原雄山氏を思い出す)。しかし、ファーストフードは、食べた瞬間は美味しいけれど、食べてからは腹心地があまり良くない。もうしばらく、こういう食事はやめておこうと思う。
 
店内から外を眺めていろいろと観察する。バスや路面電車は車体が大きい。あれだけ大きいと乗り心地も良いし利便性が高そうだ。警察署の前だからか、警察の白バイや黒バイ(YAMAHA?)もよく見かける。非常に格好いい。治安維持、本当にありがとうございます。
 
観察は続く。ロバニエミでもそうだったが、歩行者信号の感覚がかなり短く、点滅から赤になるまでも一瞬だし、すぐに車道の信号も青になる。お年寄りには厳しいだろうなあと感じるが、渋滞緩和には良いのかもしれない。
 
目の前の交差点で黒バイによる交通整理が始める。片手でハンドサインしながら、大型バイクで軽やかにターンして、手際良く車を誘導する。お見事。こうやって日常的に渋滞緩和するのも仕事なのかな、と興味深く見ていると、しばらくしたら他の警察車両も通ってくる。なんだろうと思っていたら、中国国旗のはためく黒塗りの車両が護衛車とともに登場。なるほど、そういうことか。10時半、ヘスバーガーをあとにしてホテルのチェックインに向けて歩き出す。
 
オペラ座の裏からトーロ湾沿いへ。トーロ湾の景観や遊歩道は素晴らしく、天気の良さも相まって、ロバニエミでケミ川をみて嬉しかった気持ちと同じ嬉しさを感じる。朝、ここに走りに来たいなあ。遊歩道は、自転車道と歩行者道が明確に分かれていて、かつ、それぞれ右側通行であることが路面に明示されていてわかりやすく、安心して歩ける。美しいトーロ湾を気持ちよく半周する。途中で、サウナ後に湾に飛び込むための足場と手すりを発見(この足場と手すりは、湖があれば必ずといっていいほど見かける。面白い)。この辺りから、妻のトイレ事情がやや切迫し始める。ホテルへ急げ。
 
線路を渡り、エラインタルハ湾沿いへ。なんて公園が美しい国なのだろう(しかし、だんだん自分もトイレに行きたくなってきた)。草刈りが行き届いている(草刈りしている人もよく見かける。草刈り仕事の従事者はきっととてもたくさんいるのではないだろうか)。湾を半周してホテルへの道を歩む。湾上で西洋版の水ぐもをしている人を発見する(2009年に滋賀県甲賀市の忍者村で全日本忍者選手権大会に出場して水ぐもや水上走りのタイムを競ったことを思い出す)。
 
そうこうしていると、11時半ホテル帰還・チェックイン。トイレも無事に間にあった。遊園地の丘からGPSで歩行経路を計測して6キロ弱ということは、7〜8キロくらい歩いたことになりそうだ。良い運動になった。
 
13時半ホテル出発。サウナツアーに向けて駅へ向かう。カイサニエミ植物園の公園を抜ける。寝てる人やお弁当広げてる人など、天気が良くて良い気分だ。レッドクレーのテニスコートもある。テニスしたいなあ。
 
14時、スービィーさんというガイドの方と合流してバンター市のサウナへ駅前広場のバスから向かう。駅前広場でのスペイン料理祭の様子について眺めたりしながら、今日はヘルシンキの日です、と教えてもらう。なるほど、朝からイベント設営が各地で行われていたのはそういうわけだったのか。バス車内でもサウナの入り方やフィンランドのことについていろいろとお話を伺う。日本へ二年間の留学経験をお持ちで、日本語がものすごくご堪能。
 
14時半、郊外のサウナへ。ここはものすごく素敵なところであった。人があんまり多くないし、サウナもあるし、外には湖や砂浜、芝生まであり、サウナと外は水着で行ったり来たりできる。湖畔散策も可能。我々はサウナを楽しみながら、砂浜で山を作って日本人のトンネル掘りの技術の粋を発揮して無事開通させたり、妻を砂に埋めたり、湖でおぼれそうになったりしながら、ゆったりと時間を忘れて過ごす。素敵な場所なのでまた来たいと強く思う。
 
サウナから出て、食堂でガイドのスービィーさんとともに食事。サランラップについてググってました、といきなり面白い話題から始まる。日本語がご堪能なことについての話題に始まり、修士論文のテーマとして日本の若者の話し言葉について研究されているというお話や、ホームページ制作の技術的な話題にも。経験世界の引き出しをやりとりする楽しさを感じながら話題が盛り上がる。リラックスしながら楽しいひとときとなった。
 
19時前、駅前広場でお別れしてから、まだまだ明るい街へ歩き出す。ヘルシンキ大聖堂および元老院広場へ。外観、内部、広場ともに素敵なところだなあ〜とほわわんとした気持ちになっていたところ、妻はいろいろと多感に思うところがあるらしく、特にキリスト教の方々の気持ちを考えていた。大聖堂は、敬虔なキリスト教徒の方々にとっては神聖で非常に大切な場所だと思うので、もしかしたらフェイスブック等に気軽に内部の写真をアップすることは好ましく思わない方がいるかもしれない、など。宗教や民族や国家のことについてなど、おさえておくべき知識(マナー)について、少しアンテナを巡らせていかなくてはと気づかされた。
 
Stockmanストックマンの食器コーナーやレストランzetorツェトラ(今日教えていただいた素敵そうなお店。残念ながら満員で一時間待ちで断念)など、中心街の雰囲気を楽しみながら、夜22時ごろ、ホテルに帰還。外はまだ明るく、少しお酒をいただきながらゆっくりして、明日に備えて就寝。素敵な一日だった。ありがとうございました。