1日目前半

関西空港に着くと、そこは空港であった。登山用60ℓリュックサックを背負っている人間は自分一人で、多くの方はスーツケースをゴロゴロしており、なるほどそういうものか、と感心した。
空港は広く、何をすれば良いのかよくわからなかったが、しどろもどろになりながら両替へ。受け取った紙幣は初めて手にするデザイン・質感だった。これがユーロ紙幣か。普段慣れ親しんでいる一万円札が、この人生ゲームの紙幣のような札に替わるのはなんだか不思議な気分だった。
次に何をすれば良いのかわからなかったが、海外旅行保険に入りたい、という妻のリクエストにお応えし、親切な係りの方にややオーバースペック(?)な保険に誘導されつつ、無事に保険に加入できた。
まだ何か手続きをする必要があるだろう、と航空機のeチケットなるものを眺めてみる。しかし、まるで英検準二級のリスニング問題文のようで、次にどこで何をすれば良いのか検討がつかない。たまらず、保険加入コーナーに隣接する案内係の方に助けを求め、親切なご案内をいただき、無事にフィンエアーの窓口へ到着できた。パスポートをお見せし、リュックサックを預けることができた(リュックサックは大きなビニール袋に包むことを要求された)。どのタイミングでパスポートを見せなければならないのか検討がついていないため、見せ終わるたびにかばんの中の貴重品入れにしまいこんでおり、その後、少なくとも3回は、取り出しては仕舞い、取り出しては仕舞い、を楽しく繰り返した。何もかもが新鮮である。
そのような、やや小さな驚きの連続を繰り返してか、あるいはどこか緊張しているのか、出国手続き前の段階で、空港のトイレへ既に到着1時間で三度お世話になった。空港の景観も美しかったが、トイレもまた美しく、個室には広告配信テレビまである。きっとIoTが進むと、この画面に「新婚旅行のお土産なら!」などとパーソナライズYouTube広告が配信されたりするのであろう。
「広い空港、せっかくなので階下のショップも覗いてみようか」と、早速、買いそびれていたスマートフォン自撮り棒を購入。発明だなあ。嬉しい。
また、飲食店が立ち並ぶのを見て、目が喜ぶ。「航空機内では昼飯抜きだろうから、日本最後の食事でも」と朝定食でうどんをいただいた(嬉しいことに、実際には機内サービスでお菓子・ドリンク・昼食などがしっかり提供された)。外食店の味つけはかなり濃い目だけれど、ご飯やうどんをしばらく食べられないのかあ、と思うと、3割増しで美味しく感じられた。
ゲートへの移動時間はまだやや余裕があった(と言っても、ゲートやそこに至るまでのステップについての具体的イメージは浮かんでいないので、余裕があると判断する根拠は薄い)ため、やや急ぎ足で各店舗のかばんコーナーを物色。手持ちのかばんは蓋が閉まらないタイプ(ほぼ日のOHTOかばん)で、少し不用心に感じたので、できれば蓋が閉まるかばんにしたい。結局、何店かを物色した末、無印良品にてメッセンジャーバッグを購入。中身を移し替えた。小さなリュックサックを購入するかどうかと迷ったが、登山用リュックサックを背中、小さなリュックサックを胸、という姿を想像し、購入は見送った。どちらにしてもかばんはパンパンで、リュックサックに入れておくべきだった荷物について反省・学習した
そうこうしているうちに時間が過ぎていたため、あれよあれよと、国際線の乗り場へ。手荷物検査(ここではペットボトルお茶一気飲み)、出国審査(パスポート入りのウエストポーチは、かばんに入れると取り出すのが大変なのでついに首に巻くことに)、あるいはレミー・マルタンの試飲(一度通り過ぎてから、たまらずに立ち戻る。クァーッ!美味い!)を済ませ、シャトルに乗ってゲートへ。新穂高ロープウェイを思わせるシャトル内では、既に飛び交う言語はグローバル。ああ、緊張してきた。日本を発つのだ。
シャトルを降りて、ゲートへと進む。日本との別れのときを感じる。少しホームシック、やはり日本は良いなあと感じた。
そして機内へ。緊張からか、催してきたため再びトイレへ。狭いのに工夫された個室空間で感心したが、手洗いの水を出す方法がわからなかった(後に妻も同じ体験をする)。次のチャンスを狙いたい。
離陸前ということもあり、慌てて席に戻る。フライトは9時間強とのこと。さて、どうなることやら…。
飛行機が動き出し、さあ、いよいよだ…!と思ってからしばらくは、地上で車のように走ったり止まったり曲がったり。それらを繰り返すうちに、キラキラとライトが輝く、前方に長く伸びた滑走路が右手側の席の先の窓から視界に飛び込んできた(窓から最も遠い中央列に座っている)。滑走路、なんて美しいのだろう…!
そして、機体が滑走路を眼前に据えてから間もなく「テイクオフ」というアナウンス。エンジン音の高まりや、あっと言う間に新幹線より速いスピードが座席前面のインフォメーション画面に表示されるのを見たのも束の間、身体がシートに押し付けられるような圧力を感じながら、無事に離陸した。
離陸後は、最初の数十秒こそ雲霧の中であったものの、すぐに明るい光が窓から差し込み、眼下には雲海が広がった。しばらくすると島の一部がフロントカメラ画面に映し出された。淡路島付近のマップ表示。なるほどなあ、ああ、淡路島!
ベルト着用サインが消えてホッと一息かと思えば、すぐに飛行機全体が軋み揺れながら上下する。ジェットコースターとはまた違う怖さだ。墜落したり翼が折れないことをいのるしかない。
離陸から20分。妻は僕のおもりに疲れてか既に沈没。本当にお疲れ様でした。
 
…かと思えば、朗報の機内アナウンス。ドリンクや軽食、さらには昼食も続くという。目を輝かせる我々。スパークリングワインを口にして、もはや気分は宴会。先ほどまでのホームシックや恐怖はどこへやらだ。幸せ…!
日本時間13時頃にもなると、ビールつきの昼食でもはやただの酔っ払い。京都の会社はうまく回っているだろうか、と思いを馳せつつも、確実に睡魔が襲ってくるのを感じている。眠たくなってきた。
15時前までの二時間弱、うたたねを繰り返した。いつの間にか中国を飛び越えロシア上空だ。すごいなあ飛行機は。ダイソーで購入しておいた首マクラや簡易スリッパは、当初は不要かと思われたが使ってみるとなかなかよい。機内、空の旅、なるほど快適だ。次は耳栓もあけてみよう。
ところで、我々はエコノミークラスの機体中央列の4列シートで、通路側に一名ずつ他のお客様がご利用されている間に二人ではさまる形で座っている。トイレに行きづらい。ワイン、ビール、コーヒー、水をいただいてから早4時間。跨ぐか、跨がないか、それが問題だ(妻も同じタイミングでトイレに行きたくなった。僕の左に座る妻は、さらにその左隣の男性を跨ぎ越し、成功した。二人同時に席を離れるのは避けようと帰りを待っていると「水の出し方がわからなかった。笑」といいながらウェットティッシュで手を拭く妻の姿があった。気が合う。)
次は自分の番だ。右隣で就寝中の女性のかたを跨ぎ越す(このシーンを客観的に想像すると、同じシチュエーションを語るさだまさしのトークを思い出す)。右前の座席が倒れており、かつ、女性もやや前のめりのため、妻のケースより厳しい状況であったが、無事に通路に躍りでることができた。
トイレに到着するまでに、みなさまのさまざまな機内の過ごし方を観察する。アイマスク、首マクラに身を包みながら眠るお姿はツタンカーメンのマスクのようだ。トイレは空いており、快適に用を足せた。睡眠時間は短いが、体調は大変良さそうだ。すっきりしてからは、トイレの手洗い方法も落ち着いた気持ちで探すことができて、無事に手を洗うことができた(まさか水道蛇口の上面の青と赤のボタンがスイッチだとは。自分の作るホームページなら、ボタンはボタンであるとわかりやすく作ろう、と固く誓った)。
16時前、アイスクリーム(スーパーカップのミニ。バニラ味)の配給。嬉しい。会社は今頃大丈夫だろうか。17時開始の打ち合わせを弟に任せてきた。ロシア上空より成功を祈る。アイスはカチンコチンで、プラスチックのスプーンを突き立てながら食べ進めていたところ無事に折れたため、妻のスプーンをお借りして完食。アイスにかけるための砂糖もついてきたが、アイスにさらに砂糖をふりかけるとは素敵な話だなあと感心した。チョコレートの粒ならふりかけていただろう。
16時過ぎ、ヘルシンキまでの距離は3300キロ。残り4時間を切った。あっという間だなあ。妻は何やら旅行計画を地図や手帳に書き込んでいる。時折、タイムスケジュールについて説明してくれる。このタビは大変お世話になり、本当にありがとうございます。
 
アイスを食べ終わると目が冴えてきたので、ここぞとばかりに持参したフィンランド本で情報収集。てらいまきさんの『北欧フィンランド 食べて旅してお洒落して』で、本日到着予定のロバニエミの中心街の情報や、後半到着予定のヘルシンキの情報について知る。マリメッコというブランドについて知ったのは、四月に中学時代の友人の結婚式に参加した際にビンゴ景品でタオルハンカチをいちだいたことがきっかけだけれど、本を読むにつれて物欲を刺激される。今乗っている機内のブランケットや紙コップ、お手拭きなどもマリメッコである、と本を読んで知り、妻に聞くと密かにそのことを楽しんでいた模様。到着・観光が楽しみになってきた。
日本を11時前に発ち、9時間強のフライトといっても、7時間の時差(今はサマータイム中なので6時間らしい)があるため、現地に到着するとまだ昼の15時前。その後、24時まで予定を組んでいただいているとのことなので、少し寝ておいたほうが良さそうだ。
…と、眠ろうとすると「軽食のお時間です」のアナウンス。日本時間18時半、確かに小腹のすくタイミング。白ワインとともに、鮭たまごそぼろ丼をいただき再び幸せに。到着まであと1時間少々、もうしばらくのんびりさせていただこう(今頃、日本は終業時間か…1日、どうだったかな)。
 
日本時間19時40分。FAZER社の美味しいチョコレートが配られ、残り15分で着陸体制に入り、30分後には着陸とのこと。体感的には5時間くらいに感じるほど、あっという間のひとときであった。
飛行機の現在地画面を見ると、大阪からフィンランド、なんとまあ、よくこんな遠いところまできたものだ。ドラクエIIIでいうところの、ジパングからノアニールといったところか。
無事に着陸した。全然こわくない衝撃。なんて上手なんだろう!地上に降り立つのが楽しみだ。また、ヘルシンキ空港から、ロバニエミに向けて無事に飛行機の乗り継ぎができるかどうか。わくわく。
 
 
ヘルシンキ空港もまた、やはり美しい。デザインの国、と本に書いてあったからかもしれないが、見るもの見るものかっこいい気がする。また、Wi-Fiがつながるのでメールチェックができてしまう。会社は回っているようだ…。ありがとうございます。
 
空港テラスから外を眺める。山がない。高い建物がない。空が広い。嫁は、今朝から名状しがたい感動に何度か涙ぐんでいるという。よかったよかった。
 
乗り継ぎまでに時間があるため、いろいろなお店で何を売っているかを見て回っては、「おお、物価が高い!」「これはかっこいいねえ」などと驚きの連続。日本でお店まわりをしているのとさほど変わらないかもしれないけれど、貴重なひとときである。マリメッコのお店では思わず手が出るものが多く、ぜひヘルシンキ観光時にはお店にいってみようと心に誓った。
 
ロバニエミへの飛行機に乗り込むと、今度は窓際の席。上空からの景色を楽しみたい。